事例4

最後にひと目、自宅を見たい

「今が外泊の最後のチャンス」と主治医に勧められて

人生の折々を過ごした家は、隅々に懐かしい記憶をとどめています。余命の告知など、間もなく訪れるであろう「死」を自覚 したとき、「自宅で最期を迎えたい」と希望する人は、全体の8割に上ると言われています。しかし、病状が重篤であればあるほど、在宅療養には困難がともな うのも事実です。
そういう場合に、一時的な外出や外泊であっても自宅に戻ることで、「一度でいいから自宅に戻りたい」「時間が短くてもいいから自宅で過ごしたい」といっ た患者様の希望を叶えることが可能です。本ケースでは、様々な制約から「在宅療養」が難しい患者様が、アラジンケアの看護師が付添うことで、1泊2日の自 宅での外泊を実現し、ご家族水入らずの、楽しく充実した時間を過ごされた事例を紹介します。

80代のDさんは進行性の甲状腺がんを患い、入院治療を続けていました。腫瘍に圧迫されて気管が狭くなったため、気管切 開によりカニューレ(気道確保のためのチューブ状の医療器具)を挿入。病状は安定していましたが、放射線療法も効果がなく、回復は見込めない状況でした。
最後に自宅を見ておきたい――Dさんの切なる願いを受け、主治医はDさんとご家族に一時帰宅を提案しました。「今が、外泊の最後のチャンスかもしれません」。

幸い、Dさんの体調は安定しており、自力で痰の吸引をする方法も習得済みです。とはいうものの、痰が取りきれなかった時の息苦しさや恐怖感を思うと、外泊への不安は募るばかりです。ましてや、気管カニューレの交換まで自分でこなす自信はありません。
外泊をためらうDさんとご家族に、主治医は、自費の看護サービスであるアラジンケアを紹介。最初は不安げであったご主人も、ご家族は看護に関わらなくてよいことがわかり、奥様の一時帰宅を楽しみにされるようになりました。

痰の吸引に24時間体制で対応

スタッフは事前に主治医や病棟看護師と面談し、ご自宅の下見を行いました。ご自宅は古い一戸建てで段差も多いため、Dさ んが怪我をしないよう、作業動線を考える必要があります。そこで、寝室や浴室、キッチンの位置を確認し、痰の吸引器の電源をとるコンセントの位置も事前に チェックしました。
Dさんのご主人は、室内でも杖が手放せない状態でしたが、久々に家で奥様と過ごせることがうれしかったのでしょう。「お互い80歳を超えているので、い つ何が起きてもおかしくない。覚悟はできています。うちに帰ってくれば、女房も少しは気分が変わるかもしれないね」。そう言って、頬をゆるめました。

外泊当日、Dさんは帰宅すると、布団の上にペタリと座り込みました。そして、「家はいいわあ」と大きな声ではっきりと おっしゃると、ポロポロと涙をこぼされました。仏壇にお参りをし、昼食をすませると、Dさんは庭に降りて白梅や夏みかんの木を眺めていました。息子さんに うながされるまま、ご主人と一緒に記念写真を撮り、抹茶を点てて家族に振舞いました。その後は、久方ぶりの自宅での入浴です。看護師にシャンプーなどの介 助を受けながら、Dさんは目を閉じて湯浴みを楽しんでおられました。

今回の一時外泊で最も気を配る必要があったのは、気管カニューレの管理でした。冬場は乾燥して痰が固まりやすいので、気 管カニューレが詰まったり、痰が吸引しにくくなったりする危険があります。痰がつまると、窒息や呼吸困難、肺炎などを引き起こしかねません。加湿器が無 かったため、ストーブの上で湯を沸かしたり、濡れタオルを干したりしながら室内の湿度を50~60%に保ち、ネブライザー(吸入)を使いながら、痰の吸引 を行いました。
不測の事態に備えるため、看護師は1日2交代で常時付添いました。限られた時間を安心して家族と過ごしていただけるよう、万全の体制を整えました。

家族や友人とかけがえのない時間を過ごす

その日の夜、Dさんとご家族は、すき焼きの夕食を囲みました。それがよほど楽しかったのでしょう、Dさんは旺盛な食欲を見せ、ご飯をおかわりしてご家族を驚かせました。
夕食後は家族の団欒に耳を傾けながら、隣室で休息。「明日帰ると思うと、眠るのがもったいないわ。ずっと起きていたいぐらい」。そう言いながら、Dさんはうれしくてたまらないご様子でした。

翌日、帰院までの残された時間を、Dさんはお茶を点てたり、入浴したりしながらゆっくり過ごしました。近所の友人が食事の差し入れに訪ねてくると、2人は泣いたり笑ったりしながら、積もる話に花を咲かせました。
病院に戻る時間が近づくと、Dさんはふいに2階に上がり、息子さんたちが使っていた空き部屋をじっと眺めておられました。その目には、慈しむような表情 が浮かんでいました。家中を見て回りながら、自分自身の人生を振り返っておられたのかもしれません。住みなれた家を隅々まで目に焼き付け、友人に見送られ ながら、Dさんは搬送車に乗って病院へと戻ったのでした。

一時帰宅を経験したDさんは、生き生きとした表情を取り戻し、「治りたい」「家に帰りたい」と、希望を口にするようになりました。その様子は、ご主人と息子さんをいたく喜ばせました。
「最後に家を見たい」というDさんの願いは、長時間滞在が可能なアラジンケアを利用することによって、叶えられたのです。家族水いらずで過ごした、珠玉の時間。それは、Dさんとご家族にとって、生涯忘れえぬ大切な思い出となったことでしょう。

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